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Day13. 切手
紙、というのは不思議なもので、用が済めばぐしゃりと丸めて屑籠に入れられてしまうのだが、時に用もなく捨てられてしまうこともあり、そのくせ人類の文化を支えてきた物資として重宝され、環境破壊の発端にもなるというおおよそ価値のわかりにくい大量生産物である。それの四方二、三センチのみの紙片なぞ無価値も無価値、メモするにも使えずふとした瞬間に見失ってしまうほどの大きさだというのに、彼女はそのしわがれた指先で大層丁寧に台紙から切り取るのだった。
「これがあるから思いが届くのよ」
昼下がり、夏の穏やかな日差しが差し込む庭園でティータイムを楽しみつつ、その紙片を封筒の端に貼って彼女は笑う。
「それがなくとも手渡しできましょうに」
「嫌よ、郵便として出すから良いの」
「相変わらず照れ屋ですな」
「何とでもお言いなさい」
ハイビスカスという異国の花を描いた切手が貼られたその封筒は厚い。それを彼女は大切に胸に抱えて散歩に行き、通りすがりの郵便配達員へ手渡す。
私はその郵便配達員が苦笑しながら私の元へ訪れその封筒を渡してくるのを、待っている。
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20220713
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