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Day18. 群青
空の色を「青」と呼ぶのだと教わっていた。世界にはいろんな「青」があって、それは時に水であり、時に花であり、時に布であり、目であり、絵なのだという。けれどぼくは空しか知らなかった。この街には他に青がないのだ。砂嵐から逃れるように作られた街、麻布のついたてで区切られた土地、煉瓦を敷き詰めた地面は硬く、太陽に照らされて赤々と焼けた色になる。見渡せど土色、木々は砂を被り、ぼくらは日の光に負けないようにと浅黒い肌と黒い目を持つ。視界に入る何もかもが黄色みを帯びていた。それを知っているのは、旅商人が物知りでおしゃべりだったからだ。でなければぼく達は勘違いし続けていた。
だからこそ、ぼく達は世界の本当の色を永遠に見ることができないのだと理解している。
「はじめまして」
――そのはずだった。
「今日から七日ばかり滞在させてもらうよ。ボク? ボクはね、踊り子さ」
そう言ってその子は笑った。つま先立ち、そのままくるりと回って――纏っていた鮮やかな布をはためかせた。
青の。
「青の民は舞い踊る旅人。ボク達は海を渡っていろんな街を回り、踊りを披露するんだ」
それは、見たことのない青だった。空の青をいくつもいくつも重ねたような、それでもその青には足りないような――濃い、青だった。
青色に「濃い」という表現ができるなんて、知らなかった。
「ボクの踊り、見る?」
言われて、ぼくは頷いた。
「見る」
その青に目を奪われながら、頷いた。
「はは、良い顔。じゃあ今からキミは、ボクのお客さまだ」
自分の顔を見ようともしないぼくに、その子は嫌な様子一つなく楽しげに笑う。そうして、まるでぼくにそれを見せるように両腕を伸ばしてくるりと回った。
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20220718
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