Day2. 金魚

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Day2. 金魚

 金色の金魚はいないのか? 何を言うかね、金魚ってのはだいたい、赤か黒か、そんなもんなんだよ。  おじさんがそう言うから、胸の中のふわふわしたものが遠くの地面にぽぉんと転がり落ちてしまった気分になってしまって、僕は金魚すくいの屋台から足早に離れてしまった。だって金色の金魚が欲しかったんだ。名前の通りの金魚が欲しかったんだ。 「きみね、だから言ったろう? そんなこと大人に()いたってまともな答えなんぞ返ってきやしないって」  ふるり、と目の端を金色の尾が翻る。胸びれをふよふよと緩やかに動かしながら宙へぶくぶく泡を吹かせるそいつに、ぶんぶんと首を振る。 「いる。どこかに、いる。あんたと同じ、金色の金魚」 「さてねえ」 「だから諦めないでよ。仲間、探してやるから。あんたがひとりぼっちにならないように」  大人になったら僕、あんたのこと、見えなくなっちゃうんだから。  僕の言葉に金魚は笑った。ぷくぷく、ぶくく、と金の鱗を煌めかせながら笑った。 「もう十分だけどもねえ」  パァン、と花火が打ち上がる。わぁ、と歓声が上がる。ぷくく、と泡が上がる。泡の中に花火が映って、色鮮やかにきらきらと色めく。同じ色が鱗を照らして、金の金魚をさまざまな色に変えていく。赤、青、黄、紫。  綺麗だ、と思う。だけど、花火が上がってない時の金魚の方が、綺麗だと思う。  瞬きをしないよう目に力を入れる。空の光を目に焼き付ける。花火と、あぶくと。  ――金色の、金魚。 「……大人になりたくないなあ」  呟いた声は花火の音にかき消された。 ----- 20220702
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