Day7. 天の川

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Day7. 天の川

 私の実家は、田舎と呼ぶと旧友に怒られ都会と呼ぶと同僚に笑われる程の発展具合の街にあるのだが、夜になると家の近くの街頭一つ二つがあるだけの暗闇になる。私の母はよく外の庭に出て星を眺めた。普段は階段下から用事を大声で言ってきたり迫り来るように足音を立てて階段を上がって勢いよく扉を開いてきたりする母が、時たま子供部屋へと静かに上がってきて「星見えるよ」「今日は流星群だよ」「今シリウスが見えるよ」などと教えてくれるので、私は嫌がることなくついていったものである(ちなみに私の実家で冬の星シリウスを見るのは難しい。川の堤防下の住宅街に家があったので地平が遮られていたし、冬は毎日雪雲に空が覆われる。しかし秋口の真夜中まで起きているのは子供には難しかった)。  とはいえ庭の目の前に明るい街灯があるので、そこまで見えやすいというわけではない。手で街灯の光を遮ったり、庭に寝転んで庭木で光を遮ったりしつつ、私はどうにか星空を見上げていた。私の視力はすこぶる悪い。裸眼で生活はできず、眼鏡をかけても北斗七星の六番目の星は一つにしか見えない。そして星座にさほど詳しくもなく、冬の大三角と夏の大三角がわかる程度だ。  私は天の川というものを見たことがなかった。  天の川はあるよ、と母は言う。関東の生まれである母は、幾度もあの白いもやもやとした空の模様を見たという。指差して教えてもらったこともあったが、視力の悪い私には街灯の光も相まって白鳥座しか見えなかった。写真で見てもどうにも綺麗とは思えない、白い汚れのような空。それらしいものを初めて見たのは最近のことで、共に暮らしている夫が温泉などによく連れ出してくれるのだが、その時に癖で見上げた夜空が山奥の静かな田舎であったりして、それらしいモヤを見ることができたのだった。とはいえやはりプロの写真家の作品には遠く及ばない。どれだけ街灯を消したところで、私のこの視力では絵に描いたような感動は得られまい。  だのになぜか私は夜空をよく見上げる。そして、時折家族で見上げた実家の庭の寂しい星空を思い出すのだ。 ----- 20220707
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