ウチの弟

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ウチの弟

…ウチには、5つ下の弟がおる。 名前は「藤次(とうじ)」 小さい頃から怖がりで、強面のお父はんの顔見ては、ビクビクウチの後ろに隠れとった。 そのくせ甘えたいんか、ようお父はんについて回っては、ビクビクしながら本を差し出しとったけど、仕事が忙しいお父はんは、ついぞ読んでくれることは無く、藤次はよう部屋の隅で泣いとった。 そんな弟を慰めるように、ウチは毎回、本を読んでやった。 読む本は、いつも決まって…桃太郎。 悪を許さない正義の桃太郎に、検察官のお父はん重ねて、キラキラした目ぇで内容聞き入っとる藤次は、ホンマに可愛かった。 せやから… 「はい。とーちゃん。出産祝い。」 「おおきに。姉ちゃん」 48で子供に恵まれた弟に、ウチは一冊の本を贈った。 ラッピングを解いて中身を見た瞬間、弟は照れ臭そうに笑いよったから、ウチもうっすら笑う。 「お父ちゃんみたいに、なったらあかんえ?」 「うん。おおきに…」 真っ新な桃太郎の絵本を握りしめて、弟…藤次は力強く頷く。 その姿は、ホンマに立派で、きっとええ父親になるやろなぁと思って、ベビーベッドで眠る甥っ子の頭を、優しく撫でた。 お父はんお母はんに愛されて、幸せになりよと、願いを込めて… 【終】
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