12人が本棚に入れています
本棚に追加
ウチの弟
…ウチには、5つ下の弟がおる。
名前は「藤次(とうじ)」
小さい頃から怖がりで、強面のお父はんの顔見ては、ビクビクウチの後ろに隠れとった。
そのくせ甘えたいんか、ようお父はんについて回っては、ビクビクしながら本を差し出しとったけど、仕事が忙しいお父はんは、ついぞ読んでくれることは無く、藤次はよう部屋の隅で泣いとった。
そんな弟を慰めるように、ウチは毎回、本を読んでやった。
読む本は、いつも決まって…桃太郎。
悪を許さない正義の桃太郎に、検察官のお父はん重ねて、キラキラした目ぇで内容聞き入っとる藤次は、ホンマに可愛かった。
せやから…
「はい。とーちゃん。出産祝い。」
「おおきに。姉ちゃん」
48で子供に恵まれた弟に、ウチは一冊の本を贈った。
ラッピングを解いて中身を見た瞬間、弟は照れ臭そうに笑いよったから、ウチもうっすら笑う。
「お父ちゃんみたいに、なったらあかんえ?」
「うん。おおきに…」
真っ新な桃太郎の絵本を握りしめて、弟…藤次は力強く頷く。
その姿は、ホンマに立派で、きっとええ父親になるやろなぁと思って、ベビーベッドで眠る甥っ子の頭を、優しく撫でた。
お父はんお母はんに愛されて、幸せになりよと、願いを込めて…
【終】
最初のコメントを投稿しよう!