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いつものような月曜日。朝起きたら雨が降っていた。
雨樋をつたって流れ落ちる雨が行き場をなくして玄関の前で溢れかえっている。僕はカメラを手に取るとドアを開けた。
雨の日は不思議だ。普段なら許されないことも許される気がする。いつもとは正反対の電車に乗る。つまりは、学校をサボるということ。普段なら罪悪感で押しつぶされそうになり、何かに追われているようなそんな気持ちになって、しまいには家と引き返すのがオチなのだ。でも、雨音の響くホームはいつものこの場所とはやっぱり違っていて、まるで僕を歓迎しているかのような雰囲気を漂わせていた。ホームへと滑り込んでくる電車は、普段ならただの機械なのに雨で濡れた車体と雨の音が響くホームで見るとまるでどこか夢の国。そう、ネバーランドにでも連れて行ってくれる、夢の乗り物のようなそんな気がする。これが、雨の魔法なのかもしれない。そんなことを思っていると電車はあっという間に駅に着いた。
電車を降りて、カメラを肩に紺の傘を差して目指す海辺の公園。
ここには、東屋がある。
僕は雨の海を眺めるのが特に好きで、このカメラにそれを収めている。
空はどんよりと曇っていて一見すると気分までどんよりしかねないのだけれど、この東屋にいるとそんな気分も雨音ともにどこかへ流れ去っていく。雨は疲れている時も、悲しい時もどんな時でも、僕のすべてを受け入れてくれる。
静かにそっと受け止めてくれる。そんな気がした。
ここでの一日は僕の数少ない休日。ここで一日を過ごして僕は家に帰り、それからまた雨の日までの毎日を過ごす。
でも、僕は雨の日を心待ちにしているわけじゃない。世界中の人と同じように、大事な日には雨が降りませんようにと願うし、夏の暑い日には夕立が来ないかなと雨を恨めしい気持ちで待つ。晴れれば学生の本業を全うし、放課後は友達とつるんで遊びに行き、または彼女や家族と過ごす。
ただ、雨の日が来ればカメラを持って、いつもと反対方向の電車に乗り、あの東屋まで行って一日を過ごす。ただそれだけの事。決して、決して雨の日が特別なわけじゃない。ただ雨の日には雨の日の過ごし方があり、
晴れの日には晴れの日の過ごし方がある。ただそれだけなのだ。
初めのうちは、周りの人は何でそれを理解できないのだろうと思い、いらだつことも多かった。けれどそれが間違っていることに気が付いた。僕には僕の過ごし方があるように、みんなにはみんなに過ごし方がある。
初めのうちは、いきなり学校を休み始めた僕を心配していた両親だけれど、僕が休んでも成績が変わらないことから、雨の日の僕におつかいを頼むほどに僕のルーティーンに慣れてきたみたいだ。僕はこのルーティーンを見つけてから少し生きやすくなった気がする。なんだかそう、肩の荷が下りたみたいに。ずっと抱えていたものを置く場所をやっと見つけたみたいに。
「晴海~」
そういえば、あまねに初めて会ったのもあの東屋だっけ。
そんなことを思いながら立ち上がる。あまねが呼んでいる。さあ、行かなきゃ。
すっかり、雨の音の魔法にかかった僕はあまねの待っている校門へと駆けって言行った。
今日は晴れている。
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