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やあ雨
水のなかにいた。
濁っていて、藻がそこかしこに漂っている。
天を仰ぐと、水面にさしこむ光は波紋とともに揺らいでいる。
青年はこれは池のなかなのだと、ぼんやりと理解した。そして、自分は黒いコイになっていることも。
いや、なっているというより、寄りそっているような、そんな感覚。
コイは波紋を見つけると、水面にぷくぷくと気泡をぶつけた。
どうやら、波紋の輪のなかに小さな輪を作ろうとしているらしい。意味はない。ただそれが面白いから。
次にコイは飛びはねた。それも輪を作るため。自分でも輪を作り、雫の輪と干渉し合うのを水中から眺める。輪と輪がぶつかって歪な波ができ、コイは尾びれをふりふり面白がった。
コイは雫が池に落ちるときを精一杯に楽しんでいるようだった。
まるで、やあ雨こんにちはと、雨という友と遊ぶのを待っていたかのように。
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