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プロローグ
篠田浩太郎の前に、二人の人物が座っている。
一人は男、一人は女だ。
篠田は彼らから相談を受けていた。とても難解な内容だった。
男は女を嘘つきだと言った。女は男を嘘つきだと言った。確かに、どちらかが嘘をついているように思えた。だが、どちらも嘘をついているとは思えなかった。
篠田はとても混乱していた。
職員食堂の窓際の席で、彼らと向かい合っている。彼らは可愛い後輩だった。
安座富町中央病院に、彼らがそろって入社してきたのは二年ほど前のことになる。あの頃の初々しさは薄れはしたが、今年40になった篠田にとって彼らは弟や妹のような存在であり、今でも事あるごとに質問を受けることもあれば、くだらない談笑も絶えなかった。
だが、この相談は今までにないものだった。
男は名を納見慧一といい、女は名を出雲亜美といった。二人はそろって切実な顔をしていた。
今から一時間前、最初に話を始めたのは、納見である。
とても不思議なことだが、彼が話したのは「出雲から聞いた話」であるという。隣には出雲がいるのに、出雲ではなく、納見が、出雲の話をした。
「あの日、俺は朝イチの電話で出雲に呼び出されて、この話をされたんです。篠田さん、俺は嘘なんかついてないですから」
最初は、信じようと思った。
今でも、そう思っている。
「言いたいことはたくさんあるけど、私も取りあえず聞くよ」
出雲はそう言った。実際に、彼女は納見の話が終わるまで、ただ黙って聞いていた。時折呆れたようにため息をつき、それでも諦めたように押し黙って。
窓の外には曇天が輝いていた。12月のこんな空模様が、篠田は嫌いではなかった。今日はきっと初雪が降るだろう。
納見はこんな話をした。
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