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もう少しで棒にあたりマークが付いているか判別できるところまで食べて、不意に肩を叩かれた。
「ねぇ、キミひとり?」
振り返るとそこには、他校の制服を着た3人組の男子がいた。この制服は多分、近くの不良高校だ。金色に茶色に緑色といった妙な組み合わせの髪色をした人たちは、私を上から下まで舐めるように視線を走らせた。気温は暑いのに背筋が凍る。ゾワワって背中になにかが這うような気持ち悪さを感じて、これが俗にいう『虫唾が走る』ということかと、ひとつ勉強になった。
「…………」
こういう時は無視するに限るので、奴らの質問には答えず、足を自宅方向へ向けた。せっかく美味しいアイスを独り占めできる至福の時真っ只中だったのに、訳の分からない人たちに話しかけられるなんてツイてない。シャリシャリ食べていると、「おいおい無視かよ」と3人が前に回り込んできた。
「いいもん食べてんね。俺にも一口ちょうだい」
「あ、ずりぃ! 俺も食べたい」
「俺も食べる」
金髪、茶髪、緑髪の順番で口を開ける。え、めっちゃキモイんですけど。うわ、金髪は歯並び最悪だし茶髪は隙っ歯だ。緑髪は歯列矯正の金具が見える。「自分らでアイス買えば」とこれ見よがしに大口でアイスを頬張った。わ、頭キーンってなった。
「お、喋ったぞ」
「キミ、可愛いね」
「もう帰るの? ちょっと俺らと遊ばない?」
3人で迫られると熱気が3倍になる。ただでさえ暑いのに余計な熱を発すんなよクソボケが。と心の中で悪態をついて「急いでるんで」とすり抜けようとしたら、腕を掴まれた。
「いいじゃんちょっとくらい。奢るし」
最悪な歯並びの金髪がニヤッと笑った。うわ、こんなのテストで0点取った方がマシだわ。
「離してください」
「いいじゃんか別に。ちょっとって言ってんだし」
腕を振り払おうとも、男子高校生の握力を前にすると文化部の私なんて非力だ。ビクともしない。食べ終えてないアイスからポタポタと水滴が落ちて、灰色のアスファルトに染みが広がった。誰かに助けを求めようとも、行き交う人々は我関せずといった表情で誰も目を合わせてくれない。なにが『日本人ハ皆優シイデス』だ。『時ト場合ニヨル』って付け加えた方がいいよ。
「勉強しなきゃいけないんで」と言えば「俺らがもっと大事なこと教えてやるよ」とか言って解放してくれない。暑いしアイスは溶けるしでイライラメーターが上昇し始め、あと少しで振り切るという時。
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