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ある夜。リビングのソファでガリガリ君を食べながらお笑い番組を見ていると、冷蔵庫を開けて麦茶を取り出す輝希に話し掛けられた。
「俺、岩本と付き合うことになったから」
シャク、と噛んだアイスの咀嚼を忘れて口の中で徐々に溶けていく。え、今なんて言った? 誰と付き合うだって?
輝希の言葉が脳内変換されるのに時間を要した。
「岩本、さん?」
「そう。咲希と同じクラスの岩本愛佳」
「え、なんで? 岩本さんのこと、好きだったの?」
「んー、まぁ、可愛いし、良いかなって」
「岩本さんから告白されたの?」
「あー、されそうになったから俺から言ったかな」
コップに麦茶が注がれる。意味が分からなさすぎて聞きたいことは山ほど湧いてくるのに、それらが口から出てくることはなかった。多分、これを、絶句と言うのだろう。
「輝希。お風呂空いたよ」
湯上りの母が輝希に声を掛けた。輝希は麦茶を飲み干して「ん」と頷くと、「じゃ、ま、そういうことだから」と私に言ってリビングから出て行った。
「なに、どうしたの……って、ちょっと咲希、垂れてる」
母が慌ててティッシュを持ってきてくれたが、私は太ももに落ちたアイスの雫よりも輝希の発言に気を取られて固まってしまった。母が「しょうがないな」と拭き取る。
どういうことだ。告白されそうになったから自分から言った? あいつは前から岩本さんのことを気にしていたっていうのか。嘘でしょ。輝希は知らないのだろうか。私が岩本さんから理不尽な嫌がらせを受けていたということを。というか、2人に接点があったか? 少なくとも私は2人が話してるところを見たことがない。それなのにお互い気になっていたというのか。
「ちょっと咲希。食べないならお母さんにちょうだい」
「え、あ、食べる食べる」
慌てて口に入れて、頭がキーンとなる。額に手を当てながらアイスの棒を見るが、何も書かれていなかった。
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