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3.
輝希と岩本さんが付き合い始めて2週間が経過した。時の流れというものは恐ろしく、2人が恋人同士だという事実に、疑問を持たなくなっていた。時折2人が廊下で肩を並べて話している様子を見かけることもあり、周りも「またあいつらか」と日常の風景と化した。岩本さんも私に絡んでくることはなくなり、朝は「おはよう」と挨拶すら交わすようになった。そんなある日。
黒板側のドアから教室に入ると、真っ先に岩本さんと目が合った。この2週間は不気味なくらいニッコリと柔らかい笑みを浮かべて「おはよう」なんて言っていたのに、目が合った途端、何かに怯えるような目をして肩をビクッと揺らし、顔を私から背けた。それは私に対して後ろめたいことがあるかのような動作で、でも一瞬だったし気のせいかなと思った。
しかし、教室内ですれ違う時も、廊下ですれ違う時も、なぜだか私を避けているようで、頑なに接触してこない。いや、関わってくれない方が私としてはいいのだけれど、こうも急に態度を変えられるとこっちも困惑してしまう。するとこんな噂が耳に入ってきた。
「木下輝希と岩本愛佳、別れたらしいよ」
なんと。別れたなら私に対する岩本さんの反応はおかしい。付き合う前に散々嫌がらせをしてきた人だ。別れたならそれ以上の嫌がらせをしてくるのではないだろうか。
私は家に帰ってから、輝希がリビングで1人になる時を見計らって、本人に直接聞いた。
「なんで岩本さんと別れたの?」
ソファに寝転がってスマホゲームに興じていた輝希は、声だけで返事をする。
「性格の不一致?」
なんで疑問形なんだ。私はさらに問い詰める。
「そもそも輝希は本当に岩本さんのこと好きだったの? そんな素振りひとつも見せなかったじゃん」
すると輝希はスマホをポケットに仕舞って起き上がった。
「お前こそ岩本に嫌がらせされてる素振り、ひとつも見せなかったじゃんか」
「えっ……」
完全に不意打ちだった。防御率ゼロの無防備な身体でモンスターからの攻撃を喰らったみたいに息が詰まる。闘ったことないけど、これから闘わないといけないことだけは分かった。
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