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*
木の天井が見える。
「美琴、起きた?」
「あ、おねーちゃん」
「ご飯できてるから。私は、学校行ってくるね」
「え、今日日曜でしょ?」
「部活があるの」
「へー。いってらっしゃい」
おねーちゃんを見送った後、私はしばらくそのまま布団に寝転がっていた。
また、同じ夢を見ていた。いつもの、おばあちゃんの夢。
掛布団に残る温かさを離れるのが、とても名残惜しい。できることならずっとこのまま布団にくるまっていたい。
でも、そうすることが時間の無駄なのは、私自身よくわかっている。
私は小学生だから、やるべきことや行くべきところがたくさんある。それらに時間を吸い取られると、自由時間はかなり少なくなるのだ。
私はベッドから這い出すと、カーテンを開ける。
庭が見えた。色とりどりの花が伸び伸びと立ち並び、それぞれの植物が楽しそうに風に揺られ、陽に当たっている。私にとっては、巨大な庭。ここは、おかーさんとおとーさんが造り上げた場所だ。
それこそ、私やおねーちゃんが生まれるずっと前から。だから私は、この世に誕生して数日で、もうこの広大な緑に触れていた。
私にとってこの庭は、帰るべき故郷のようなものでもあった。
*
一人で食べる朝食は、少し味気なく感じられる。おねーちゃんが用意してくれた卵かけご飯と粕漬の鱈と薩摩芋の味噌汁を手早く食べ終え、私は玄関に行った。
壁にかかっている青緑色のダッフルコートを羽織る。
もうすぐ二月も終わり、三月になる。けれど、テレビのニュースによれば、この厳しい寒さは四月まで続くと言う。まだ当分の間、このダッフルコートは手放せそうにない。
外に出ると、温かいけれどどこか頼りない、弱々しい太陽の光を受けて、我が家の庭が広がっていた。
庭は、日々進化している。全ての植物が、進化したり老いたり、常に変化している。だからこそ、その変化の仕様に目が離せなくなるのだ。それは、庭が広くなり、育てている植物が多くなればなるほどそうなる。ここにいる植物たちは私ではなく全ておとーさんとおかーさんが育てたものだけど、私にとってはどちらでもいい。私の、小学校とは別のところにいる友達であることに変わりはないから。
私はあちこちから生命力を醸し出している庭をのんびりと歩き、やがて温室に辿り着いた。この温室はおとーさんの作業場で、あまり入ってはいけないといわれている。ただ一つの用事を除いて。
それは、私がおばあちゃんから受け継いだ仕事をする時だ。
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