婚約者

1/6

163人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

婚約者

 熱い、寒い、苦しい。  香夜は熱に浮かされながら、何とかその苦しみに耐えていた。  用意してもらった薬は飲んだ。あとは額を冷やしつつ熱が下がる様寝ているしかない。 (あれ? でも薬は誰が用意してくれたのだっけ? 額の手拭いも――っ)  ふと疑問に思ったことを考えるが、頭痛に追いやられ思考は途絶えた。  そのまま意識がはっきりしない状態で寝込んでいると、部屋に誰かが入って来る気配がした。  その人は額の手拭いを替えると、優しく頭を撫でてくれる。 (誰だろう?)  自分にそんな優しく接してくれる人などこの里にいただろうか?  倒れる直前に見た燦人の優しい微笑みを思い浮かべるが、彼であるはずがない。  大体にしてあれは夢か幻としか思えないのだ。……それに、撫でた手は女性のものだった。 (本当に、誰だろう?)  思うが、頭痛で瞼が開けられない。その姿を見ることが叶わない。  自分に優しくしてくれる女性などいただろうか? (ああ、でも……)  もっと小さい、両親が亡くなってすぐの頃。  夜泣き疲れて眠る自分を撫でてくれた人がいた気がする。  この手は、その人と同じような気がした……。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加