ステアーという女

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 男の顔を真上から見る。何が起きたかわからない、と言いたげな男の顔を思いっきり踏みつけた。  ゴリッと言う鼻の折れる感触がブーツから足に伝う。  私は相手が時計塔の後ろに隠れたのを確認した瞬間に次の動きを決めていた。  両手の銃から放った無数の銃弾で五人を薙ぎ倒し、駆け込んだ足を止める事無く直進、時計塔に(もた)れかかって死んだ奴を踏みつけ跳躍、時計塔を三度の跳躍で素早く上り切り、真下の男に飛び込んだのだった。  真上からの強襲にうろたえるだけの男を埃まみれのタイルに倒すのは非常に容易かった。  男の顔を踏み台に軽く飛んで着地する。見下ろしてみれば男は床に倒れながら痛みに悶えていた。 「グッ……こ、こいつ……!!」 「さて、詫びのひとつでも入れて貰おうかしら」  右手の短機関銃(TMP)の銃口を顔面に突き付けながらにじり寄る。  ベルトで肩から提げていた銃は踏みつけた衝撃で吹き飛ぶ事は無かったが、男は手から放しており、身を起こす為に床に手を付いている。もし銃に手を掛けようものなら、その小さな脳味噌を汚いタイルにぶちまけてやる。 「てめぇ……俺達を誰だと思ってやがる!」
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