ステアーという女

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 大昔に落ちた爆弾の汚染は余程酷い場所でなければ気にするほどでもない。  それでもガイガーカウンターは手放せないのだけれど。  男を引きずりながら大階段を下り、外に出た。  夜の風は冷たい。風の強い日は肌を刺す様な寒さがあるが、運動した後の火照った体には心地良い。  いい加減引きずるのも面倒になって来た。ヴィレッジは目の前の階段を下りれば直ぐである。 「おら、前を歩きなさい」  男の服を引っ張り前に立たせると背骨に銃口を突き付けた。叱られたガキの様に短い悲鳴を上げた男は両手を上げてゆっくり階段を下り出した。  この駅から地下街へ向かう際の一瞬だけ見える外の景色を、少しだけ気に入っている。  辺りに見えるのは倒れたビルと瓦礫、むき出しの鉄骨、所々文字が抜け落ちた電球の付いた看板。変わり映えしない景色ばかりだけれど、日々移り変わる物が無い時が止まったこの世界では僅かな事も遊びにしないとつまらないだけの毎日になってしまうだろう。
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