ステアーという女

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 壁の罅の枝分かれを行き止まりに辿り着くまでなぞって歩いたり、雲の形を何かに当てはめてみたり。そんな事をして暇な時でも私は外に出てぶらぶらと滅びた川崎を歩いた。  私が初めて外の世界を見て色々と歩いて回った時はヴィレッジの真上にあるロータリーでぶつかり合って放棄されたバスの中に入って動いていた時代に思いを馳せながら運転席でハンドルを動かして遊んだものだ。  そんな昔の事を思い出していたら気付けばもう階段を降り切って巨大な扉、いや門と呼んだ方が良いだろうか。巨大な門の前まで辿り着いていた。  ヴィレッジの入り口であり、二九九九年の戦争から中の人間を守り抜き、その子孫達をも守って来た、残された人類のゆりかご。
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