はじまりは静寂から

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 既に電車を迎える駅のホームも、待ち合わせや時間の調整にと使われていた飲食店も瓦礫の底に沈み、長い長い年月によって積もった埃にまみれている。  最早この広大な駅構内を清掃する清掃員も、濁流の様に流れる乗客の波を監視、管理する駅員も存在しない。  西暦三二九九年。私はこの駅で拾われた。戦時中、軍港として使われていた横須賀や横浜、京浜工業地帯よりも攻撃の被害が少なかったこの周辺はそれらの地域よりも大気汚染は無く、フィルターの付いた防護マスク等を装着しなくても短時間は行動できる。だがそれは大人の場合の話だ。  赤子の私は汚れた外気に野ざらしにされたまま、改札口の横にあるコインロッカーの中に捨てられていた。文明崩壊を生き残った人々によって無理やりこじ開けられたロッカーは破壊され、歪み、出来そこないの蜂の巣の様になっていたロッカーの中にだ。  駅の近くの地下街の更にその下に大型の地下シェルター・ヴィレッジがあり、それが狭苦しくも数少ない生空間だった。
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