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その本は人間と動物の違う所はなんだ? と言う事について書き記してあるものであったが、肝心な所は焼け落ちていた。
「何難しい顔しているんだステアー?」
その声にハッと顔を上げる。理緒だ。
「暗い顔してた。悩みでもあるの~?」
「ああ、何でもない」
私は頭の周りに取りついた思考の雲を振り払う様に首を横に振って出来る限り笑顔で答えた。
だがその反応は逆効果だったか、理緒は頬を膨らませむくれた。子供扱いしたと思ったのだろう。子供には関係ない、という風に。
「大したことじゃないんだ。寝れば忘れるさ」
精いっぱいの誤魔化し。そんな私に、仕方ないな、と肩を竦めてみせた理緒の姿を見ると、私よりも大人の様に見えてしまった。
居住区に入る。そこには先ほどと同じ大きめのタイルの床に白い壁が広がっているが、何百年と言う長い年月に頻繁に人が行き来し、過ごして来た区画はエントランスより大分汚れ、痛んでいた。
所々罅割れたタイルや壁、毀れ落ちた欠片は長い年月で踏まれ砕かれ、粉となって散らばっている。積もった埃は隅に積み上げられ灰色の山を形成している。
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