キャラバン:前編

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「ええい、俺はもう我慢ならねぇ!」  どこからか聞こえる男の声、そしてその声の主であろう男が目の前の通路に姿を現すと、肩を強張らせ鞄と銃を持って私の横を通り過ぎて行った。時折見かける光景だった。  私は通り過ぎ様に男の足に足を引っ掛けた。  時々神経質な住民が銃を持ってヴィレッジの外に出て行こうとしたが、戦い慣れしていない人間がブリガンドやミュータントが跋扈し、時折遠くから吹きつける寒波に生き延びられる筈も無い。探索をしていると瓦礫の溝や廃墟の隅で白くなっている元住民の姿を見る事は珍しくはなかった。  目の前で男が派手に転び、鞄の中の着替えや弾薬を撒き散らす。  鼻を押さえながら男がこちらを向いた。 「て、てめえ何しやがる!!」 「何処へ行こうって言うの?」 「外だよ! こんなせまっ苦しい所に死ぬまでいられるかってんだ!!」  声を荒げて私に怒鳴るも、痩せた体に伸ばしっぱなしの髭、疲れた顔つき、それでは私を怯えさせるには至らない。  私は努めて冷静に男に問う。 「今の足にすら注意が行かない程冷静さに欠けた行動で外に飛び出して、それで生きて行けるのかしら」
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