ステアーという女

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ステアーという女

 川崎駅、改札口前のコンコースは戦前、多くの人間が跋扈していた。  改札前の待ち合わせに使われていたであろう時計塔は、爆撃を受けた当時の時間から針は動きを止めている。衝撃や倒壊に巻き込まれ、折れなかったのはコンコースが広く、その中央に建っていた事や、真上の天井がガラス張りだったのが幸いしたのだろう。  天井のガラス部分は少ない。だが爆撃が運よく直撃しなかったこのコンコースは隣の商業施設ほど破損は酷くない。  それが災いしてか構内施設の略奪が横行したのだが……。  そんな事も遥か昔の事である。  私は姿勢を低くしながら足場の悪い大階段を上り、登りきった所で左手のフードコート跡に身を隠した。  壁に背を預け、ちらりと時計塔の方を覗き見る。そこにはブリガンド共が銃を片手に煙草をふかしている。今から襲おうと言うヴィレッジを前によくもまぁ余裕な事だ。でもその余裕は私にはありがたい。  肩にぶら下げた銃、エムナインと呼ばれる機関拳銃だろう。
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