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マリエッタ嬢は小さく深呼吸をした。そしてこう答える。
「私は貴方様の侍女としてこちらのミナストリア辺境伯様にお預かりいただいております」
「ミナストリア…?なぜ…」
聞いたことのある名だ。しかしミナストリア辺境伯その人とは面識がない。
美しい顔の男で令嬢たちには人気なのだと聞かされた気もする。
しかしあまり興味を持てる話題ではなかったからそれがミナストリア伯であったかも定かではないくらいだ。
ということは安直に考えればここはミナストリア辺境伯邸、もしくはその持ち物のいずれかということになるだろう。
ミナストリア辺境伯は魔界と内通していたのか?…
マリエッタはただその場で瞬きを繰り返している。
いや、それ以前になぜ“勇者様”と結婚したはずのマリエッタはここで夫である俺の“侍女”と名乗っているんだ。
そもそも“侍女”とは社交界や貴族夫人の生活に不慣れな女性に、年上の令嬢を世話係として付けるものだ。
男である俺に付けるなら“侍女”でなく“専属メイド”だろう。辺境伯の嫌がらせか?
「では。私を攫ったのもミナストリア辺境伯ということになるな」
「はい。伯爵にお連れいただきました」
「そうか」
“いただいた”は単なる敬語か、それともマリエッタ嬢の指示でミナストリア伯に動いてもらったということか。彼女の表情からは読めそうになかった。
どの道ミナストリア辺境伯が私を攫いマリエッタ嬢を私の“侍女”とした意味はまだ分からないが、ここはやはり魔界のどこかではなく王都と地続きの土地なのだろう。
ならば脱出さえしてしまえば途中で馬を調達し王都へ帰り着くことは容易なはず。
多少の動揺は感じるもののマリエッタのこの落ち着きからして伯爵と彼女は仲間(グル)だろう。では魔王は?
俺の誘拐先にたまたま無関係の魔王が現れるなんてことはさすがにありえない。
マリエッタ、ミナストリア辺境伯、そして魔王は何を企んでいるのだろうか。
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