転生勇者は溺愛される

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ミナストリア辺境伯という男はそれからというもの事あるごとに“丁度いい”タイミングで現れては俺に相手を求め程よい時間で場を後にした。 あまりの丁度良さに気味が悪い程だ。 それは例えば小腹が空いたと思えばふらりと間食を持って部屋へやって来たり、剣の打ち合いがしたいと思えばすっかり身支度して稽古に来たりといった感じで。 俺の迷惑にならない程度でいつも切り上げ去っていく。 不思議なことはもうひとつあった。 突然姿を消し消息不明のはずの俺の領地の運営を何故かミナストリア辺境伯が代打で行っているという。 もともと国王の持ち物である領地の主が消えたとあれば速やかに王の領地の扱いに戻るはずのものを、なにをどうしたか保留扱いになっているらしかった。 そして”代打“の体でおいて実際は俺本人に管理させている。そして俺が慣れない対応に詰まればそれとなく手を差し伸べて解決していく。 気が抜けるほどに至れり尽くせりだ。 「勇者様?」 マリエッタ嬢の声に本から顔を上げる。 「ん?」 「そろそろ休まれては?もう3時間も書類に埋もれていらっしゃいますわ」 「ああ、そうだな」 伸びをして席を立つと応接セットに深々と腰を下ろす。この部屋も寝室とは別にミナストリア辺境伯が私用に用意した執務室だ。 屋敷の主のものと大差ない設えに当初は面食らったが。 小さな文字ばかり見ていたので目を閉じて目頭をつまむとマリエッタ嬢が心配そうな表情をした。 「また難しいことでもございましたか?」 「灌漑工事の件ですこし行き違いがあったみたいだ。その調整をしているが業者と揉めそうな感じがしてな」 「それはまたどういう行き違いが?」 マリエッタ嬢が綺麗な瞳を細めて小首をかしげる。 ここしばらくで知ったことだが、マリエッタ嬢は領地運営に関しても造詣が深く頭が切れた。 あのまま婚姻がうまく行っていたならこんな風に領地を二人で切り盛りしたのだろうかと容易に想像ができる。 若すぎるお嬢さんと思っていたが、自分のような未熟な新参貴族にはこれ以上無い優秀な妻だったらしい。 素直に結婚させて貰っていた方がよかったかもしれないと思えるほどに頼もしかった。 ただオジサンの自覚がある者としては、彼女の望む相手と望む人生を送ってくれたならそれが一番いいと思う。 説明しながらマリエッタ嬢の淹れた紅茶を受け取った。
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