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「なるほど…」と声が呟く。
俺を殺しに来たのでないなら。
動く素振りのない敵に、いやまだ敵なのかさえもわからない男の動きに集中する。
もしや狙いはマリエッタ嬢か。ここにいないのは何故か。側付たちが事態を知っていたなら蜂の巣をついた騒ぎになるはず。それがあの様子なら何も知らない。誰も。なんていうことだ。
連れ去られたのか?
すでに死体となってこの部屋を連れ出された彼女の姿が浮かんでザッと血の気が引く。
「お前はなんてことを…」
呟くとベッドの向こうの声がフッと。
不思議と寂しそうに笑った。
「自分の身よりお嬢さんか。まあ、勇者ですもんね。…でも構いませんよ。あなたが僕を覚えていなくても拒絶されようとも。あなたを迎えに行くと決めていましたから」
「俺を迎えに?…」
何を言っているかわからない。とにかく慎重に身構えると、天蓋のベールの向こうで影がゆるりと動いた。こちらへわずかに気配が近づきその内側から男の白い手がそれをかきあげる。
その向こうに見えたのは、長い黒髪にブルーサファイアのような真っ青な瞳をした美しい男の顔だった。
「やっと会えた」
そして俺は唐突に意識を失った。
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