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ゆっくりと目を開くと、カーテンの隙間から爽やかな朝日が手元に差し込んでいた。
徐々に意識が覚醒するとはっとしてバネのように起き上がる。
ここは!?…見回すと見知らぬ寝室だった。マリエッタ嬢の寝室よりは質素だが緑を基調とした落ち着きのある部屋だ。
そこに俺はただ一人で眠っていた。
洋服もそのままで着衣に乱れもなく、痛いところもない。乱暴に連れ去られたということはなさそうだ。
しかし…。この部屋を懐かしい、と感じてしまう。
なぜだろうか。いや、空気だ。空気の匂いがどこかかぎ慣れたものだ。でも昨夜までいた王都とは違う。
冷静ではあるものの困惑した。
それに。
あの男が俺を連れ去った理由がわからない。
“迎えに行くと決めていた”の意図がわからない。
転生勇者が旅を終えた後はどうなるものなのか。
正直、目的を果たしたらこの世界からも消えてしまうのかと思っていたほどだ。
転生し、目的を果たし、安堵したと同時に心のどこかで途方に暮れていた。
それが妻を与えられ地位を得て領地の運営を任され新たな役割をゆっくり飲み込む気でいて、かと思えば誘拐された。
ともすると実はあの男こそ俺がこの世から姿を消す原因なのだろうか。
いや、にしてはこの扱いは丁重すぎると言えるだろう。
異世界ってやつは相も変わらず時折むちゃくちゃだ。
その時、部屋の外が騒がしくなる。
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