転生勇者は溺愛される

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 まだガヤガヤと鎮まらない魔物たちを魔法で黙らせ静かにノックする。  部屋の中から返事はなかった。結局無理矢理に攫ってくる形になってしまったから警戒しているのかもしれない。  予定ではきちんと了解を得て城へ迎えるはずだったのに、酷い夜だった。  目覚めたばかりの彼はさぞ驚いていることだろう。  ノックから少し間をあけて静かに扉を開く。声を盗られた魔物達がなにやら頭を抱え項垂れた気配がするが知ったことか。たったしばらく仕事を放棄したらなんだっていうんだ。  扉の影からするりと部屋へ入ると、彼のために設えた特注のベッドに身を硬くする男がいた。 「おはよう。よく眠れた?」  声をかけるとこちらを見る瞳が見開かれる。  その表情、深い土色の瞳。幾千の戦いで拵えた傷が増えていてもやはりこの人はあの頃と変わらな…  感慨深く思っていると「貴様!?…」と絞り出すような声がする。  そしてこちらが親しみを込めて見つめた驚いたような表情はあっという間に激しい憎悪に変わっていった。  「何故…何故生きている…お前は」  強い戸惑いと恐怖に満ちた声に戸惑う。  なぜ生きてるって。  昨日の夜会った人が死んでたほうがヤバくない?  しかしその様子は尋常ではない。すでにベッドから転がり出て戦闘態勢を取っている。  さすが先代魔王を討ち取ったばかりの身のこなしだ。  や、感心している場合ではない。  これはとてもいい雰囲気とは言えない。  いくら誘拐したからと言ってそれほど敵対視しなくてもいいのでは!?  ショックに呆然としながら目線だけでちらりと配下を振り返る。  昨晩に続きまた私は魔王として情けない姿を見られて!!  見ていられないと目を手で覆う者。何も聞くまいと耳を握り潰す者。声もなく項垂れる魔物の群れの中に必死に部屋の奥の鏡を指す者がいた。  相手を怯えさせないようまた僅かな動きで鏡を見る。 「っ…………!!?」  鏡に映った己の姿に顔がひきつる。  これでは完全に、完全に勘違いをさせている。 「死んでいなかったのだな…」  噛みしめるように言われ、武器を持たないせいかジリ、と後退される。  こちらもそれと同じく頭の中が真っ白のまま廊下へにじり下がる。  こんな姿を見せては殺されても仕方がない。  しかしここで死ぬわけには絶対にいかない。  歯の間から静かに静かに息を吸い言葉を捻り出す。 「いえ、死にましたので。ちゃんと死んでます。あの、ちょっと、死んでくるので、待っ…て て 」  残像になるほどの速さで廊下へ飛び出し勢いよく扉を閉める。        
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