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とんでもない失敗をした。
同情でいっぱいの配下を前に必死に無表情を取り繕う。私、魔王なので。
群衆中から一番身分の高いバリダという人型の魔物が頭を垂れて言う。
「ですから皆、魔王様が“人型”でなく“魔王”の御姿で飛び出していくのを必死で止めておりました。“魔王”のお姿は代々伝統で同じ姿形。
この前倒したはずの先代魔王と瓜二つの姿の魔王様が朝の挨拶にやってきたあの方のお気持ちがわかられますか」
「…そうだな」
「僭越ながらあの方のこととなりますと魔王様は焦り過ぎになるご様子。皆案じております。恥じてください」
「そうだな」
辛辣な物言いにさえぐうの音も出なかった。
完璧な策略と力で魔王になった“この私”が素の僕になった途端にあまりにも、酷い有様だ。
直属の上司たる天下の魔王にさえ微塵の遠慮もないバリダの大きなため息は城中を吹き抜けるようだった。
今こそ本気を出さねば。
魔王の座を追い求めたあの時のように。
彼を振り向かせるまで寸分の狂いもない完璧な紳士になるのだ。
口封じの魔法と一緒に変幻を解く。
鋭い眼の僕に空気が引き締まる。
「今から言う事をよく聞け…」
有象無象の群れは熱心に僕の声に聞き入った。
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