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SIDE 勇者
おおいに混乱していた。
脱出を試みるも、この部屋は窓ガラスに至るまで頑丈に、おそらく魔力を込めて作られており一分の隙きもなかった。
あの姿、のんきにも挨拶などしてきたあの黒い筋肉の塊のような肉体に顎の大きな醜い顔、螺旋を描くように捻れた長い頭部の角と地の底を這うような低い声。
間違いない。
あの姿はひと月前に倒した“魔王”だ。
一刻も早く王都の城へ戻り魔王の復活を報せ、魔王討伐の部隊を組み直さなければ!
確かに死んだのを確認したはずなのに、さっき見た姿は傷一つなかったではないか。
おそらす昨夜の青年は魔物だったのだ。
復讐のため魔王は私の命を狙っている。
だから刺客により連れ去られた。
これで辻褄が合う。
胸が痛むがマリエッタ嬢の命はすでにないと考えて間違いないだろう。
俺と関わったばかりになんて酷いことだろうか。
魔物とはそういうことをする生き物なのだ。
憎しみがグツグツと湧き上がる。
…しかしなにか違和感も感じる。
あの魔王…どこか以前と雰囲気が変わったような。そしてこの場所もおかしい。
魔物に連れ去られ、魔王まで現れたのにおそらくここは魔界ではない。
窓外の景色や空気感からしてもあの土地独特の感じがしない。
つまりここは魔界への中継地なのか。
わからないがまずはここから脱出しないことには何も進まない。
たった一つ試していない脱出法を試すほかないだろう。
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