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「タエコ! 汚いぞ!」
と叫んでみたが、出でくる気はないようだ。
そうこうしてるうちにシゲルと陣之内がやって来た。
「話ってなんだ」
「さあ、皆川くん。何でも聞いてあげるから話してごらん」
なんと鬱陶しい光景だろう。
「何でもないわよ!」
突き離したつもりだが、残念なことに愚かな男たちは突き放されたことがわかっていない。
陣之内が得意気な顔で言う。
「そんなに遠慮することはない。君と僕の仲じゃないか」
――職場の同僚以外の何者でもないはずだが。
シゲルもドヤ顔で言う。
「戻って来たいんなら早く来い」
――そんな話は一切していない。
どうしてこいつらは人の話を聞かないんだろう。
こうなったら仕方がない。
シホはくわっと目を見開くと
「ナミ、あとは頼んだ!」
と後輩にすべてを託し、一目散に逃げ出した。
「あっ、シホ先輩! 待ってください!」
「おいシホ、そんなに恥ずかしがることはないぞ」
「皆川くん! 君のための時間はいつでも開けて待ってるよ」
追いすがる三人の声を背中で聞きながらシホは我が身の不幸を嘆く。
――あたしってほんとツイてないわ。
遠くで楽しそうに笑う幽霊の声が聞こえた気がした。
なんだかちょっぴり腹が立った。
――了――
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