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「タカシ、お前もなんか言ってやれ」
リョウヘイからパスを受けたタカシは一言
「バカ」
と言った。
「バカとは――」
「だいたいおかしいだろ」
シゲルにみなまで言わせず、リョウヘイが畳み込む。
「何がおかしいんだ」
「フットサルってのは何人でやるもんなんだ?」
「五人だ」
シゲルは当たり前のことを聞くな、と言わんばかりの顔である。
リョウヘイが訊く。
「俺たち何人だよ」
「四人だ」
「足りねえじゃん!」
シゲルはこれみよがしにやれやれと肩をすくめた。
「おいリョウヘイ。もっと前向きに考えろ。退場者が出たと思えばいいだろ」
「思えねえよ!」
それ前向きじゃないし、とタカシもリョウヘイに同調する。
シゲルは映画の外国人がするように額に手を当てると、大げさにため息をつき、なあリョウヘイと不満げなチームメイトを見た。
「サッカーの試合では退場者が出て少なくなったチームのほうが勝つことがよくある。なぜだかわかるか?」
「わからん」
「一人抜けた穴を『みんなで埋めていこう』という強い意思がチームのなかに生まれるからだ」
「十一人が十人になるのと、五人が四人になるのとは割合が違うだろ」
「某国民的男性アイドルグループだってメンバーが休んでたときは四人でがんばって乗りきったじゃないか」
「俺たちゃ最初からいねえだろうが!」
「リョウヘイ――」
シゲルは無言で首を横に振ってにっこりと笑うと、己の胸に手を当てた。
「気持ちだよ、気持ち」
「何が気持ちだよ、まったく」
愛想を尽かしたリョウヘイの後ろでタカシが笑う。
「シゲルは心がこもってないときほどいい笑顔だね」
と――。
その時、ううっ……と下の方でくぐもった声がした。
「おっ、生き返ったみたいだな」
リョウヘイは不運な友人の傍らに立つと右手を差し出した。
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