第一幕

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「タカシ、お前もなんか言ってやれ」  リョウヘイからパスを受けたタカシは一言 「バカ」  と言った。 「バカとは――」 「だいたいおかしいだろ」  シゲルにみなまで言わせず、リョウヘイが畳み込む。 「何がおかしいんだ」 「フットサルってのは何人でやるもんなんだ?」 「五人だ」  シゲルは当たり前のことを聞くな、と言わんばかりの顔である。  リョウヘイが訊く。 「俺たち何人だよ」 「四人だ」 「足りねえじゃん!」  シゲルはこれみよがしにやれやれと肩をすくめた。 「おいリョウヘイ。もっと前向きに考えろ。退場者が出たと思えばいいだろ」 「思えねえよ!」  それ前向きじゃないし、とタカシもリョウヘイに同調する。  シゲルは映画の外国人がするように額に手を当てると、大げさにため息をつき、なあリョウヘイと不満げなチームメイトを見た。 「サッカーの試合では退場者が出て少なくなったチームのほうが勝つことがよくある。なぜだかわかるか?」 「わからん」 「一人抜けた穴を『みんなで埋めていこう』という強い意思がチームのなかに生まれるからだ」 「十一人が十人になるのと、五人が四人になるのとは割合が違うだろ」 「某国民的男性アイドルグループだってメンバーが休んでたときは四人でがんばって乗りきったじゃないか」 「俺たちゃ最初からいねえだろうが!」 「リョウヘイ――」  シゲルは無言で首を横に振ってにっこりと笑うと、己の胸に手を当てた。 「気持ちだよ、気持ち」 「何が気持ちだよ、まったく」  愛想を尽かしたリョウヘイの後ろでタカシが笑う。 「シゲルは心がこもってないときほどいい笑顔だね」  と――。  その時、ううっ……と下の方でくぐもった声がした。 「おっ、生き返ったみたいだな」  リョウヘイは不運な友人の傍らに立つと右手を差し出した。
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