第一幕

9/37
前へ
/99ページ
次へ
 あきれ顔のリョウヘイの代わりにタカシが呟く。 「シゲル。ハルヒコね、たぶんもうちょっとで吐くよ」 「何ッ!」  シゲルは最後まで味方だと誓ったはずの友人をあっさり放棄すると、脱兎のごときすばやさで後ろに飛び退いた。  支えを失ったハルヒコはそのまま地面に激突し、ぐへ、とおかしな声を発して気を失った。  友達甲斐も何もあったものではない。 「ひでえなあ」  と呟いたリョウヘイに、シゲルは逃げた先でお前らがもっと早く教えてくれていればこの不幸な事故は回避できたんだと主張する。 「不幸な事故ねぇ」  これが事故と言うなら世の中で起きている事件のほとんどは事故と言うことになるだろう。 「可哀相なハルヒコ」  タカシが芝生に転がっているハルヒコに気の毒そうな目を向ける。  あたりにハルヒコ同情論が広がりつつあることを感じ取ったのだろう。実行犯であるシゲルは 「うおほぉん!」  とわざとらしい咳ばらいをすると、ポケットに突っ込んでいた試合の進行表をこれみよがしに取り出し、 「あぁ〜、次の試合は十時十五分からだから。それまで各自体力を回復させておくように」  と上から目線の指示を出した。 「無〜理。もう動けねえよ」 「情けないこと言うなリョウヘイ。俺なんかまだピンピンしてるぞ」 「お前はいいよ! キーパーだから動いてねえし」  シゲルはチッチッチッと人差し指で否定する。 「わかってないな、リョウヘイ。キーパーってのはチームの要なんだ。俺ぐらいの精神力がなきゃ務まらんのだよ」 「十八点も取られてよくそんなことが言えるな」  大量失点した〝自称〟チームの要は 「勝負は時の運だ」  と悪びれもせず言った。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加