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エピローグ
ハルヒコがアオイにプロポーズしてから一週間が経った。
ドラマチックな舞台となった屋上にはいま、三人の男女がいた。
言い争う二人の男。それを少し離れたところから女が眺めている。
一人の女を巡って二人の男が恋の火花を散らして争っている――といえば女冥利に尽きるところではあるのだが、それは争っているのがハイレベルな男たちだった場合の話である。
少なくともコイツらのような男では断じてない、とシホは思っている。
眼の前ではポンコツ同士の醜い罵り合いが繰り広げられていた。
「このヤブ医者! たまには仕事しろ!」
「黙れ、木っ端役人! しょっちゅう来てるようだが君こそ仕事をしているのか!」
シゲルが自分を棚に上げて反撃する。
「グダグダうるさいんだよ! 客に対する口の聞き方も知らんのか!」
「君のどこが客だ! だいたいここは病院だぞ! 君みたいなガサツで健康な人間は来てもらわなくて結構だ!」
「お、何だその言い草は。じゃあ見舞いに来る人間にも来るなっていうのか」
「君は見舞いじゃないだろう!」
制服の男、陣之内は見下したように顎を上げると
「この前から思っていたんだが君、本当に役所に勤めているのかね」
と小馬鹿にしたように言った。
「何だと」
「君のような男が公務員試験を通ったとは思えない。もし本当に職員なんだとしたらおおかたコネでも使って入ったんだろ」
シゲルはフフンと鼻を鳴らし
「コネも実力のうちだ」
と自信満々に答えた。
限りなく低いレベルで言い争っている男たちを眺めながらシホは大きなため息をついた。
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