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焦げたラム肉から煙が立ち上がり、スクリーンを覆い尽くす。
通りに小さなスニーカーが脱ぎ捨てられている。子供が逃げる途中で落としていったのだろう。
立ち並ぶ無人の屋台。無人の大通り。片方だけの白いスニーカー。そして、焼け焦げていくクップマット・・・・。
何かとんでもないことが起こりそうな予兆が画面越しに押し寄せてきて、僕の口の中はどんどん干上がっていく。
カメラが空を見上げた。太陽が真上から降ってきて目が眩む。白色のベールが捲れ、通りの両側に壁が反り上がり、一人の少女に焦点を結んだ。
窓から身を乗り出して通りの奥を窺っている。十歳にも満たないくらいの幼い顔立ちだ。
他の住人は窓を閉めカーテンの奥で息を潜め身を隠しているのに、その少女だけが、これから起きることを目に焼き付けようと、勇気を振り絞り、見据えているのだ。
「私です・・・・」彼女が押し殺した声で言った。「子供の頃の・・・・」
それは郷愁を全く感じさせない、塗り固められたような硬い響きだった。
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