プロローグ

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突然、画面が前後左右に激しく揺れた。 通りが長い影に覆われる。まるで地底から這い出した悪魔の長い爪のようで不気味だ。 三叉路を曲がって姿を現したのは市街地制圧用の戦車カイアサットだった。 カイアサットの最大の特徴は、狭い場所で三百六十度回転できる機動力でも、短時間で連射可能な百二十ミリ砲でもなく、その悍ましいにある。 迷彩柄は緑と黒か茶系統の色と相場は決まっているが、カイアサットは鮮やかな黄色と赤の迷彩柄だ。 それは塗装の目的が身を隠すためではなく、人々を威嚇して震え上がらせるためだからだ。 時間と空間を隔てているにもかかわらず、如意棒のような長尺の砲身のサイケデリックな迷彩柄が見えた瞬間に、僕は思わず武者震いして後退りしてしまった。 カイアサットは、恐怖心を煽るために、とてもゆっくりとスローモーションのように屋台を破壊しながら進んで行く。 カメラはしかし、その場から一歩も後退せず、真直ぐにカイアサットを見据えたままだ。 カイアサットは躊躇なく前進し、砲身の迷彩柄が頭上に大写しになったところで映像はブラックアウトした。 撮影していたカメラマンはカイアサットの下敷きになり圧し潰されて亡くなったそうだ。
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