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第5章 10 不気味な予言
「アイリス、折角俺と2人で食事をしているのだから今はこの俺との時間に集中しろ」
暖かい日差しが当たり、木のぬくもりを感じさせるサンルーム。
2人で丸テーブルの席で向かい合わせに座って食事をしているとオスカーが突然声を掛けてきた。
「申し訳ございません。少しぼんやりしてしまいました」
シーフードパスタを食べる為に手にしていたフォークを一度皿に置くと私は素直に謝った。
「フン。まあいい…」
オスカーはつまらなそうに言うと、上品な手つきでステーキをカットして口に運ぶ。私は心の中で溜息をつき、パスタを口に運んでいると再びオスカーが声を掛けてきた。
「どうせ…あの男の事を考えていたのだろう?」
「あの男??レイフの事ですか?」
「ああ。そうだ。レイフは言ってたな?子供の頃お前はレイフと結婚の約束をした……」
オスカーはどこか面白くなさそうな口調で言う。
「あの話は気になさらないで下さい。所詮子供の口約束…ままごとみたいな話ですから」
言い終えると再びパスタを口にする。
「アイリス、お前と言う女は…」
「?」
顔をあげてオスカーを見ると、彼はじっと私を見つめている。
「本当に…18歳なのか?お前は妙に大人びているし、どこか達観しているように見える。まるで長い人生を歩んできたような…」
「!」
長い人生…?
まさかオスカーは私が70年前からタイムリープしてきたことを知っているのだろうか?
いや…そんなはずはない。私が二度目の人生を生きていることなど誰も知らない…知るはずがないのだ。
「それは…きっと父と母からそのように教育を受けて育ったからではないですか?公爵令嬢ともあるべきものは何事にも動ぜず、強い心を持つようにとの教育方針の元育てられたので」
「ふ~ん…そうか…」
するとその時―
「オスカー様!こちらにいらしたのですね!」
サンルームに大きな声が響き渡る。驚いて振り向くとそこに立っていたのはタバサであった。
タバサはズカズカと私とオスカーのテーブルに歩いてくる。そしてオスカーの傍にやってきた。
「酷いじゃないですか!私言いましたよね?お昼はご一緒させて下さいと。なのに話の途中で教室からいなくなり…挙句の果てにはこちらでアイリス様と2人で食事をしているなんて。私がどれだけ探し回っていたかご存じですか?!」
タバサは走り回ってきたのだろうか…髪を結わえているリボンがほどけかかっているし、ハアハアと荒い息を吐いている。
「さあな、俺はお前とそんな約束はした覚えがない」
オスカーは食べ終えた皿の上にフォークを置くとタバサに視線すら合わせずに言う。
「そんな…!先程4時限目の講義が始まる前に私は言いましたよね?」
するとここでようやくオスカーはタバサを見た。
「俺は何も返事をしていない。第一お前が勝手に話を持ち掛けてきただけで、同意はしていないからな?」
「…」
私はタバサとオスカーの言い争いを黙って見ているしかなかった。今ここで私が口を挟めばますます話がややこしくなるような気がしたからだ。
それにしても口論をするのならもっと場所と時間を選んで欲しい。
今はアカデミーの昼休みでランチタイムの時間である。当然このサンルームが併設されたカフェには多くの学生たちが食事に来ており、好奇心旺盛の目でこちらを注目しているのだ。
私は彼らの視線が痛くてたまらなかった。
私が居心地悪そうにしていることにオスカーは気づいたのか、声を掛けてきた。
「よし、アイリス。お前も食事がすんだようだな。ここはどうにも好奇心旺盛な輩が多くて落ち着かない。どこか静かな場所へ行こう」
オスカーは立ち上がり、周囲の学生たちを睨みつけるように見渡した。
「待ってください!オスカー様っ!まだ話は済んでいませんっ!」
なおも引き留めようとするタバサにオスカーは言った。
「俺はお前のような女に興味はない。目障りだ、どこかへ消え失せろ」
それはとても冷たい声だった。
「!」
タバサは一瞬ビクリと肩を震わせ、俯いた。
「行くぞ、アイリス」
「はい…」
オスカーに促され、しぶしぶ私は立ち上がった。そしてタバサの傍を通り過ぎた時、彼女のつぶやきを耳にした。
「オスカ……今に見ていなさい…。いずれ私にひれ伏すのは貴方になるのだから…」
「!」
私は聞こえない振りをして急いでオスカーの後を追ってサンルームを出た。
そしてこの言葉の表す意味……いずれ私は身を持って知ることになるのだった―。
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