プロローグ 

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プロローグ 

 カチコチカチコチ… 静まり返った部屋に無情にも時計の音だけが響き渡る―。 約束の時間になったと言うのに、いつまでたっても控室にオスカー様は迎えに現れない。 「どうしたのかしら…。予定ではもう大広間にいないといけないのに…」 我慢が出来なくなった私は椅子から立ち上がり、扉に向かった。そして開けようとしたのだが…。 ガチャガチャ! 「え…?」 押しても引いてもドアが開かない。ま、まさか…閉じ込められた?!途端に自分の顔が青ざめていくのが分かった。 「お願いっ!誰かっ!ここを開けてっ!」 ドンドン扉を叩いても誰も開けてくれない。と言うか人の気配すらドアの向こうで感じられない。 「そ、そんな…誰もいない…の…?」 扉に寄りかかり、崩れ落ちた私は何とか外へ出る方法が無いか部屋中を見渡した。 ここはお城の2階にある控室。部屋には応接セットが置かれてるだけの粗末な部屋。始めにここに通された時は一瞬物置部屋では無いかと思った程だ。 大きなアーチ型の窓には少し日に焼けて黄ばんだカーテンがぶら下がっている。 「あのカーテン…使えないかしら…」 私は窓に近付き、カーテンを見た。 …かなり丈夫そうだ。これなら使えるかも…。 髪留めを外し、鋭利な先端でカーテンの布を3枚に切り裂いた。そしてこれを結んでいく…。 「出来たわっ!」 即席脱出用布…これがあれば…。 窓の下を覗くと高さ的に見てこの布でも足りそうだ。 窓際に置かれたソファの足に結び付け、地面に放り投げると丁度地面すれすれまで届いた。 準備出来たわ…。 幸い私は子供の頃から木登りは得意だ。ハイヒールを地面に投げ落とし、素足になると布をしっかりつかみ、ゆっくり慎重に降りて行く…。 数分後― 「な…何とか降りる事が出来たわ…」 安堵のため息をつくと、脱ぎ捨てたヒールを片手で持って私は急いで大広間へと走った―。 **** 「駄目ですっ!ここから先へは絶対にお通しできませんっ!」 大広間へ続く扉の前で私は騎士達に行く手を塞がれた。 「何故よっ!私はアイリス・イリヤ!今日オスカー様と婚約発表をする事になっているのよ?!何故通してくれないのっ?!」 すると一人の騎士が言った。 「いいよ…通してやろう…」 「レイフ…」 彼の名前はレイフ。王宮騎士で私の幼馴染でもある。 「し、しかしっ!」 1人の騎士の言葉をレイフはさえぎった。 「いや…真実を自分の目で見て知っておいた方がいいかもしれない…行けよ。アイリス」 「え?ええ…」 そして私は王広間の扉を開けた。 今にして思えば、私はこの時城を逃げ出すべきだったのだ。 そうしていればあんなことにはならなかったのに…。 この時ほど私は人生で死ぬほど後悔した事はなかった―。
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