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第1章 4 両親との再会
「お嬢様、旦那様と奥様がこちらのお部屋でお待ちになっております」
リリーが案内した部屋…そこは父の書斎だった。
父の書斎には大きな本棚があり、沢山の本が並んでいた。子供の頃父の書斎で過ごすのが大好きだった私の為に父は書斎に私専用の書棚とテーブルセットを置かれ、書棚には私の為に大量の絵本が並べられた。
私は父が仕事をしている傍らで大好きな絵本を読んでいた…。
80年以上も昔の記憶なのに鮮明に蘇ってくるのは、実際の今の私の年齢が18歳だったからなのかもしれない。
「アイリスお嬢様、中へお入りにならないのですか?」
扉の前で立ち止まっていた私を不思議に思ったのかリリーが声をかけてきた。
「ごめんなさいね。リリー。今中へ入るわ」
そして私は扉をノックした。
コンコン
すると中から声が聞こえてきた。
「アイリスか?」
「はい、そうです。ご挨拶に参りました」
「入っておいで」
「失礼致します」
ドアを開けて中へ入ると大きな窓を背に懐かしい父と母の姿がそこにあった。
父は銀色に輝く美しい髪にエメラルドの瞳を持ち、そして母はプラチナブロンドにコバルトブルーの瞳の持ち主で、2人共絶世の美男美女とうたわれ、2人の結婚が決まった時は内外で大騒ぎになったと言われたそうだ。
「アイリス。今日からお前もアカデミーの学生の一員だな」
良く響くテノールボイスの声の父が声を掛けてきた。
「その制服…とても良く似合っているわよ」
ゆったりとしたドレスに身を包んだ母がほほ笑んだ。
お父様…!お母様…!
私の胸に思わず熱いものが込み上げてきて、涙が滲みそうになって来た。
駄目だ…ここで涙を流しては不審がられてしまうかもしれない。だって実際のアイリスは昨夜も父と母に会っているのだから。
涙をごまかすために私は両目を擦った。
「どうしたんだ?アイリス。目を擦ったりして」
そんな私に父が声を掛けてきた。
「い、いえ。何でもありません。少し太陽がまぶしかったもので」
「あら?立っていた場所が良くなかったのね。気が付かなくてごめんなさい」
母は申し訳なさそうに項垂れた。
「いいえ、いいんですよ。お母さま、気になさらないでください」
私は笑顔で答え、改めて母を見た。
母は今年40歳になるが、とてもそんな年齢には見えなかった。今も少女のように若々しく、美しく見える。勿論隣に立っている父も青年に見えるような外見だ。
「さ、それではアイリス。朝食の準備が整っているから食事をしておいで」
父に言われ。私は会釈をすると部屋を出た―。
****
父と母は私が島流しにされた後、国王フリードリッヒ3世に父は許しを請いに出向いたが、謀反の罪と称して国王の命により兵士によって無残にもその場で切り殺されてしまった。
その後夫を亡くした母は無理矢理フリードリッヒ3世の側室にされてしまった。
元々、フリードリッヒ3世は若かりし頃、母に恋慕していたが結婚する事は叶わなかった。何故ならその頃既に父と母は恋仲であったからだ。
そしてフリードリッヒ3世は母を手に入れる事が出来ず、他国の姫を妻にして迎え、オスカーが生まれて私とオスカーの婚約が一方的になされてしまったのだ。
今にして思えば、私を罪人に仕立て上げて島流しにしたのはフリードリッヒ3世とオスカーの仕組まれた陰謀だったのかもしれないが、その理由は定かではない。
そして私が何故この事実を知っているかと言う事も…思い出せなかった。
ただ、自分の右手の薬指にはめられた指輪を見ていると忘れていた記憶が蘇ってきそうな気持になる。
いずれにせよ私が捕まってしまえば大好きだった父は殺され、母はフリードリッヒ3世の側室にされてしまう。
兵を連れて反旗を翻した二人の兄と弟は結局戦いに負け、謀反の罪で全員処刑されてしまった。
つまり、私がオスカーに捕まってしまえば…イリヤ家の人間は全員不幸な末路をたどってしまう事になる。
「何としても私は今回は絶対にオスカーに捕らえられてはいけないわ…」
そう、今の私は二度目の人生を生きている。
だから私はもう絶対に失敗しない。いや、失敗してはいけないのだ―。
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