第9章 1 行く当てのない私

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第9章 1 行く当てのない私

「レイフ……」 私はレイフの気配が消えてしまった城壁を呆然と見つめていた。けれど、すぐに我に返った。 「そうだわ。いつまでもここにいたら今頃タバサが私の姿が消えたことに気付いて生きていることがばれて追手がかかるかもしれない。折角レイフが身体を張って私を逃がしてくれたのだから、一刻も早くここを去らなければ!」 私は自分に言い聞かせると王宮に背を向けてレイフに言われた通り『リーベルタース』を目指して歩き始めた。  行けども行けども長く続く一本道。しかし周囲はのどかな田園風景が広がり、多くの人々が馬車で、時には徒歩で行き交っているので不思議と不安な気持ちにはならなかった。 けれど、『リーベルタース』に着いたらどうすればいい?私にはレジスタンの隠れ家の場所が分らない。 そして肝心のオスカーやユリアナの居場所すら分らないのだ。 「きっと『リオス』に戻っても私は王宮の兵士に見つかって掴まり、国王陛下の前に引きずり出されるかもしれないわ。一体どうしたらいいの……?」 歩きながら弱気な心が頭を持ち上げて来る。 だけど私は強く首を振った。 いつまでも誰かに守られているような弱気な人間ではいられない。近いうちにいずれ私はフリードリッヒ3世の中にいる悪魔と対峙しなければならないのだから。 思わず不安で俯いてしまう。 それでも私にはやらなくてはならないことがある。 何としても王家に掛けられた『エルトリアの呪い』を解き、フリードリッヒ3世に憑りつく悪魔を払わなければならないのだから。 私は気を引き締めると、再び前を向いてひたすらに『リーベルタース』へ向けて歩みを進めた――。 ****  20分ほど歩き続け、ついに『リーベルタース』の都市をぐるりと囲む城壁が目に入った。 「やったわ……ついに……辿り着く事が出来たわ……」 私は溜息をついた。身体はもうへとへとになっていた。 でもこの後はどうすればいいのだろう? 折角『リーベルタース』に到着したというのに、私には何の当ても無いのだ。 城壁の入り口には大きな公園がある。私はそこの公園の木の下のベンチに座ると溜息をついた。 「ふう……疲れたわ……」 すると私の目の前を通り過ぎる人達が何故かジロジロとこちらを見ていることに気が付いた。 おかしい……何故みんな私を見ているのだろう? その時になって初めて気が付いた。自分がいまだお仕着せを着ていたという事に。 ひょっとすると、王宮の仕事をさぼっている駄目なメイドと思われているのだろうか? ここに座っているのはまずいかもしれない。 私は立ち上がると、再び重い足を引きずり、あてもなく歩き始めた。 でも一体どこへ行けばいいのだろう? 「そうだわ。とりあえず教会において貰おうかしら?」 ここの都市の教会はシスターが多く、女性や子供に特に親切にしてくれると聞いたことがある。 それに教会には蔵書が置かれている。 ひょっとするとフリードリッヒ3世に憑りついている悪魔の正体のヒントを得る事が出来るかもしれない。 そして私は教会のある方向へ足を向けると歩き出した――。  『リーベルタース』は円形の形をした都市である。都市の中心部から南へ向かうと小高い丘があり、その丘の上には一番大きな教会があるのだ。 なれない靴を履いてる為に靴擦れでズキズキ痛む足を引きずるように歩いていると、背後から突然声を掛けられた。 「もしや……アイリス様ではっ?!」 聞き覚えのある声に、思わず振り向くと、そこには王宮騎士であるアドニスが佇んでいた――。
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