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序章 4
栄養状態が悪いうえ、今迄オスカーに受けた暴力によって私の体力はかなり疲弊していた。そしてそのまま気を失ってしまった―。
あれからどの位時間が経過したのだろうか…。
<…きて…起きて…。お願い…目を開けて…助けて…>
誰かが耳元で囁いている。…誰だろう…。
ボンヤリと目を開けると眼前には青空が広がっていた。
「こ…ここは…?」
一瞬自分が今何処にいるのか分からなかった。そして首を動かし、自分が地面に倒れている事に気が付いた。
何とか身体を起こして辺りをキョロキョロと見渡したが、目の前に広がる風景は大自然で集落の1つもある気配が無かった。
「どうしよう…本当にこの島で私はこれから…一生1人で暮していかなければならないの…?」
未だに私の着ている服は囚人服。
今の季節は春で、幸いにも寒くはいなが、冬がきたらどうするのだろう?寒くて凍え死んでしまうかもしれない。いや、それよりも前に餓死…もしくはオスカーの暴行によってできた傷が悪化して死んでしまう可能性だってある。その証拠に蹴られたショックなのかは分からないが、呼吸するだけで胸がズキズキと痛んでいる。
…ひょっとするとあばら骨が折れているのかもしれない。
1人になり、冷静になって来ると今さらながら恐怖が襲ってきた。
私は言われの無い罪で裁かれ、囚人としてこの島に送られてしまった。
「嫌よ…。無実なのに掴まって…こんな所で誰にも知られる事も無く1人で死んでいくなんて…」
思わず涙がにじみ出て来る。だけど…。
「私は…絶対簡単には死なない。あんな奴等の思惑通りに死んでたまるものですか。何処までももがいて…生きて、生き抜いてやるんだから…っ!」
身体中が痛みでズキズキするが、何とか起き上がると辺りを見渡した。私が置いてきぼりされたこの場所は平原で、眼前は海。後ろを振り向けば遠くの方には山が聳え立っている。
気候は温暖な様であの肌寒い石造りの牢屋に比べれば格段に快適な場所と言えた。
「この島は本当に無人島なのかしら…?誰も住んでいないのかしら?」
取りあえずここにいても始まらない。私は何処か屋根のある場所で身体を休めたかった。何所か良い場所が無いか探す為に一歩踏み出すと、右足首に酷い激痛が走った。
「ウッ!」
恐る恐る右の足首に触れてみるとそこは熱を持ち、酷く腫れている。
「い…痛い…足…くじいているのかも…」
どうしよう、こんな足では歩けない…。
そう思った矢先、どこからか、まるで蛍のような小さな光がフワフワと飛んできて私の怪我した右足首に止まった。すると、突如としてその光が眩しく光り輝いた。
「キャアッ!な?何っ?!」
思わず眩しさに目がくらみ、強く目を閉じると徐々に光が弱まっていき、やがてフワフワと私の顔の前をゆっくりと飛び始めた。
「あら…?痛く…無い…」
気付けばあれ程痛かった右足首の腫れはひき、顔の痛みも無くなっている。さらに光はオスカーに蹴られた部分にも止まると、不思議な事にあれ程痛かった体中の痛みが嘘のように治っていた。
「え…?この光が…もしかして私の傷を治したの…?」
するとその小さな光はフワリと私の眼前に浮かぶと、まるで道案内をするかのようにゆっくりと飛び始めた。
「あの光は私の傷を治してくれたわ…。あの光について行けば何かがあるのかも…!」
私は意を決してその光の後をついて行くことにした。光は私が迷子にならないようにゆっくり飛んでは時々空中で止まってくれる。お陰で私は迷うことなく進んでいった。
裸足で歩く道は辛かったが、我慢して歩き続けるとやがて小さな集落のような場所にやってきた。朽ち果てた小さな石造りの小さな家々がポツンポツンと20軒程並んでいる。
「え…?家がある…。ひょっとして誰か住んでいるのかしら?!」
1人じゃないっ!嬉しくなった私は一番近くにあった家に駆け寄ってドアを叩いた。
「すみませんっ!誰かいらっしゃいますかっ?!」
しかし扉をドンドン叩いても何の反応も無い。
「あの~…お邪魔しますよ…?」
遠慮がちにドアを開けると、途端に埃が舞い上がる。
「ゴホッ!す、すごい埃…」
埃を吸い込まないように袖で口と鼻を抑えながら辺りを見渡すも人の気配は全くない。打ち捨てられたかのような家だった。部屋のいたるところは蜘蛛の巣が張られ、暖炉はもうずっと火を起こしていなのか、埃とカビにまみれている。
「誰も住んでいないのね…」
試しに全ての家を覗いてみたが、やはり人の気配は何所にも無かった。
けれど…。
「ここなら…住めるわ。今日からここに住ん、、生き抜いてやるわ。いつかこの島を抜け出せる日が来るかもしれないし…絶対にあっさり死んでやるものですか…!」
私は心に誓った。すると、私の傍を飛んでいた小さな光が再びフワフワと飛び始めた。
「え…?まだ何処かに案内するつもりなの…?」
すると光は私の質問に答えるように強く光った。
「そう…それじゃ案内してくれる?」
そして私は小さな光に導かれるように後をついて行くと、集落を抜けた先にうっそうと木々が茂った林が有り、片隅に小さな祠があった。するとその光は祠の中に吸い込まれていった。
「え…?この祠に何かあるの…?」
祠の中を開けてもいいのだろうか…?何だか罰が当たってしまいそうだけど…。
だけどあの光は私をここに案内してきたと言う事はこの中にきっと何かがあるに違いない。
「開けますよ…」
一応断りを入れながら、私は祠の扉を開けた。祠の中には蓋が閉まったガラス瓶が入れられていた。そしてその便の中は光り輝いている。
その時突然私の頭の中に声が響いて来た。
<開けて…。この瓶を開けて…>
「え…?開ければいいの…?」
でもこの瓶…どう見ても封印されていたように見える。もしかしてこの瓶の中には悪い魔物か悪魔でも入っているのではないだろうか?
しかし私がこの光に助けられたのは紛れもない事実。だから恩は返さなければ…。
「待っていて、今開けてあげるから」
祠の中に入っている瓶に触れた瞬間…。
「あ、熱いっ!」
その瓶はものすごく熱を持っていた。こんなに熱くては素手で触ることが出来ない。
「何か…何か巻かないとあの便に触れる事が出来ないわ…」
辺りをキョロキョロ見渡すと、大きな葉の茂った木が目に留まった。
「あの葉を瓶に巻けば…触れる事が出来るかも」
私はその木に近づくと何枚か葉をもぎ取り、再び祠へと戻って来た。瓶になるべく触れないように2枚の葉を巻き付け、瓶を握った。それでもまだ熱いけれども、我慢できるレベルだ。私は蓋に手を触れた。蓋も熱くなっている。
「せめて…もう少し熱くなければ良かったのに…」
思わずつぶやきながら、再度触れると先ほどよりも熱くない。
「え…?さっきより熱くない…。でもこれなら…」
私は蓋に手を置くと、力を込めて蓋を回た。なかなか堅い蓋だったが、熱さをこらえて必死で蓋を回し…ついに私は瓶の蓋を開ける事に成功した。
「あ、開いたわっ!」
思わず叫ぶと、突如として辺りは眩しいくらいに強く光り輝き…急激に自分の意識が遠ざかっていった―。
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