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2.白い死神
「うああああああああっ!?」
あまりの驚きにへんな大声をあげながら、俺は後ずさって廊下の壁に思いきり背中をぶつけた。
いや一人暮らしの部屋に誰かがいたらそれだけで怖いだろ!
なのに、そこに立っていたのは。
真っ白なフード付きのローブをまとい、手には大きな鎌を持ち、そしてフードの下からのぞく顔は――骸骨。白い袖口から伸びる手も、腕も、骨だ。
古い挿絵や絵画に出てくる、死神そのものの姿だった。ローブの色が黒ではないのが、不思議なくらいの。
「な、な、な、なんだお前!?」
コスプレ不審者にしては、不審すぎる。驚きと混乱と怯えと動転が入り混じって上ずった俺の声に、そいつは「おや?」という風に首をかしげてみせた。
《ワタクシの姿が見えるのですか? ずいぶんとめずらしい方ですね。こんなことは初めてです》
皮膚も筋肉も持たないはずのそいつの声が、心をつたって聞こえてくる。
《まあ、お察しかとは存じますが。――ご覧のように、死神です。お迎えに参りました》
「ばかな!」
案外とていねいに答えてくれた死神に、ほんの少しの安堵を感じはしたが、返事の内容はそれどころではなかった。
「おれはまだ三十代だぞ! 持病もない! 怪我もしてない!」
先日の健康診断でも、異常なしと言われたばかりだ。誰かと間違われて連れ去られるのはごめんだ。
《ああ、いえ、あなたではないですよ》
死神はあっさりと、それを認めた。
《今日、寿命をむかえるのはこちらの洗濯機です。ワタクシ、白物家電担当でして》
死神は大鎌で、傍らの乾燥機付き洗濯機を示す。
「んなあああああああああああっっっ!?」
俺は再び、言葉にならない声をあげた。
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