3.寿命

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3.寿命

 やめてくれ、と懇願する間もなく、死神の大鎌はさっくりと洗濯機を一刀両断した。刃は壁や洗濯機をすりぬけ、見た目にはなにも変わらなかったが――俺には、なにかそこに宿っていた大切なものが、刈り取られたように感じた。 《では、お休みのところ大変失礼しました》  さっさと消えてゆこうとする死神の声に、俺は膝をつく。 「俺のっ……俺の相棒……っ!!」  なんてことだ。悔しさが、喉の奥から搾り出るように漏れた。  つらい日も、眠い日も、洗濯は必要だ。一人分なので多少はため込んでおけるが、結局は洗って綺麗にしなければ生活が回らない。  外に干すのも、嫌いじゃない。けれど今日のように、干してもなかなか乾かないとわかっている時、こいつがどれほど心強かったか。  ずっと愛用していた。料理をするのが面倒で、買った弁当ばかり食べていた時だって、洗濯はちゃんとやっているという自負があった。  こいつがいてくれたから―――!  床に手をつき、絶望に打ちひしがれる俺の心に、戸惑ったような声がとどいた。姿は消えたまま、声だけが。 《なんというか……所有者(ヒト)と直接言葉を交わす、というのは、思っていたよりも心にきますね》  なにかを迷うような口調。 《形あるものはいつかは壊れ、生まれたものはいつか死ぬ。予兆があろうとなかろうと、その(ことわり)からは、誰も逃れられません。  ……ですが》  やわらかく続く言葉に、俺は顔をあげた。 《これもご縁かもしれません。ひとつだけ、お教えしておきましょう》
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