雨の日珈琲店

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雨の日珈琲店

 目当ての煙草だけ売り切れなんて、そんな事あるかよ。 自販機の返却レバーを乱暴に押して、お札を薄い財布にねじ込んだ。 コンビニまで徒歩十五分。歩けない距離じゃ無いがめんどくさい。 「あ?あれ、あいつ」 アパートの門の前を、のそのそと横切る小さな白い物体。 「まじかよ。いや、まさかな」 あいつが戻って来たのだろうか。 かたつむりを跨いで、アパートの門をくぐる。が、ちらりと振り返った時に目に入ったかたつむりの背後からやって来る自転車。 でっぷりとした腹の中年男は、昼間から酔っているらしく、幅の狭い道を蛇行しながら鼻歌を歌っている。 このまま進めば――。 「あー、もうっ、何なんだよ」 俺は駆け足で通りに戻り、自転車の男が急ブレーキを掛けるより数秒先に、かたつむりを拾い上げていた。
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