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雨の憂鬱
結局、あれから珈琲店には入れなかった。
というのも、店内から聞こえてくる楽し気な子供の声に、二の足を踏んだというのが本音だった。
穏やかな雨音は、いつしか轟音へと変わり、ぼろアパートの雨どいを滝のように流れ落ち、窓の外は稲妻が暗闇に閃いていた。
「ったく、いつまで降るんだよ」
時折、ざざっと窓を叩きつける雨音が、ノイズとなって俺の感情をざらつかせる。
ツンとするかび臭い部屋で、豚骨醤油のカップラーメンをすすりながら、さっき届いたメッセージを見返した。
【美咲があんたに会いたいって言うんだけど】
これが届いたのは、今日の昼間。俺が雨の日珈琲店の前にいた時だ。
そして俺は、返信することも無いまま既読スルーを続けている。
ラーメンの汁を飲み干し、缶ビールを傾ける。
ジッポーライターの蓋を開ける金属音。咥えた煙草に火を点けて、煙を狭い六畳間の宙に吐いた。
「こんなみっともねぇ父親の姿、見せれるわけねぇじゃん」
溜息と共に出た白い煙はゆらりと渦を描いて、天井の染みに溶けるように霧散した。
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