雨の憂鬱

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介護士として昼夜問わず働いていた俺が、ある日ぷつん、と糸が切れたみたいに仕事が手に付かなくなったのだ。 夜勤に行かなくちゃいけないのに、布団から出られない。 解っているのに動けないジレンマ。 重い体を引きずって何とか仕事はこなしたが、その日を境に煙草を吸う量が馬鹿みたいに増えた。 一日60本は吸うようになり、亜沙美は子供のいる家で吸うなと言う。 当たり前と言えばそうなのだが、当時の俺はその当たり前の指摘ですら、酷くストレスに感じていた。 それから程なくして離婚をした。もちろん俺とあいつの間に、寄りを戻そうなんて考えは毛頭無い。 それでも俺には切っても切れない家族がいる。 【美咲が、夏休みにパパの家に遊びに行きたいって】 八月で五歳になる美咲は、引っ込み思案な女の子だ。家の中でだって我が強い所は見たことが無い。 幼い割に、聞き訳が良くて、優しい子だ。 だが、この家に遊びに来るだって?いや、それは無理だ。 ゴミが散乱する色褪せた六畳を見回す。 どうせ亜沙美が言わせているだけだろう。 夏休みは子供が一日中家にいるという事だ。 離婚した今、亜沙美はひとり、仕事に家事、子育てと奮闘している。 そうは言っても、彼女の母親が住む実家は徒歩10分の距離だし、本人も「お母さんが手伝ってくれるし、今すぐにでも離婚して」と言ったくらいだ。 それでも、たまには親と言う仕事から離れて、羽を伸ばしたいのだろう。 亜沙美からのメッセージに、今までろくに返信した事が無い。 養育費だって決まった日に振り込むし、それ以外に連絡を取らなければならないような用事も無い。 だから今日もまた、そのメッセージには返信しないまま、スマホの電源を落としてズボンのポケットに突っ込んだ。 ふと、ちゃぶ台に伸ばした手が止まって、思わず舌打ちした。 「煙草、ねぇじゃん。買いに行くか」 昼飯に食べようとしていたカップ麺を足で蹴って、玄関までの道を作り、ぼさぼさの後頭部を掻きむしりながら部屋を出た。
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