雨の日珈琲店

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助けたかたつむりを土手の下で放してやると、草むらの中に入って行ってしまった。  さすがにファンタジーな展開は無いか。 無職の三十五歳。そんな子供染みたことを期待していたのだろうか。 ぽつり、と右腕に冷たい雫が流れ落ちる。 雨だ。 空はあっという間に灰色の重い雲に覆われ、一粒落ちた雨滴の間隔はあっという間に短くなり、やがて世界を白い靄に染め上げた。 「あ、お前……」 かたつむりが入った草むらとは反対側、側溝の鉄板蓋の上を気持ちよさそうに首をぐんと空に向かって伸ばし、のろのろと歩く別のかたつむり。 傘も持たない俺は煙草を買うという本来の目的も忘れ、気付けばまた、そいつの後を着いて歩いていた。
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