第六章 反撃開始

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 話は夏海の不倫動画を見て、悪魔二匹への復讐を兄弟三人で誓い合った頃にさかのぼる。  兄は理由を言わず父と交渉して、三十万円という大金を借りた。  「今まで一度も金がほしいとかあれ買ってとか言ったことのない架がそこまで言うのだから、何かよっぽど切羽詰まった事情があるのだろう。ただ道に外れたことに使うのだけは許さない。そこだけは大丈夫なんだな?」  その道に外れた連中を成敗するために使うんですよ、と架は心の中でつぶやいた。  架はその金でDNA鑑定の手配をし、数台の超小型ビデオカメラを買った。余った金で通販サイトで睡眠薬を買ったと言うから、  「大丈夫?」  と聞いたら、  「おれが飲むわけじゃない」  と笑われた。  超小型ビデオカメラは自分たちで母の浮気の実態を確認したいからだという。  「浮気の証拠ならUSBの中の動画データだけで十分なんじゃないの?」  「浮気の証拠じゃない。実態を知りたいんだ。USBの動画は全部あの女の浮気相手が撮ったものだろう? もっとえげつないこともしていて、それは消去してる可能性もある」  「もう十分すぎるほどえげつない動画を見せられてきたと思うけどね」  日曜日、母が買い物に出かけた隙に兄弟三人でカメラを各所に設置した。父は自宅にいたけど、こそこそと動き回る僕らの行動にまったく違和感を感じてないようだった。そういうのん気な性格を悪魔二人につけこまれた、ということだろう。  月曜日は動きがなかった。火曜日の正午、宮田大夢が現れたと兄からSNSで連絡があった。カメラと兄のスマホは連動していて、カメラが受信した映像と音声は兄のスマホでもリアルタイムに確認することができる。  「えげつなかった?」  と聞いたら、  「ああ。夢叶が怒り狂うだろうな」  と返事が来た。  帰宅後に三人で録画されたデータを確認した。  二人はまず夫婦の寝室のベッドで求め合った。裸で寝室を出たかと思うと、次に夢叶の部屋に現れた。大夢が夢叶のベッドに仰向けに横たわり、そこへ夏海が騎乗位で合体し、夏海がベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねている。  「もうこのベッドで寝られないよ……」  と夢叶は泣いたけど、僕らが知らなかっただけでこれまでもこんなことはいくらでもあったに違いない。大夢は夢叶のタンスをいじり、下着のにおいを嗅いだりもしていた。夏海は笑って見てるだけ。  「何やってるの? キモすぎるんだけど。この人、あたしの実のお父さんなんじゃなかったの?」  「勘違いするな。血が繋がっていてもいなくても、おれたち三人の父親は佐野清二さんだけだ」  次に宮田大夢が訪れたのは金曜日。  大夢と夏海はダイニングのテーブルの上で座位で繋がっていた。  「おれ子供の頃食事中テーブルに足を乗せたら、行儀悪いことするなってあの人にめちゃくちゃ怒られたのにな」  ダイニングから消えた二人は次にバスルームに現れ、大夢は空の湯船に放尿したりしていた。  「やりたい放題にもほどがある……」  「兄ちゃん、早くあの女追い出してよ!」  笑いながら人を殺せる快楽殺人者という人間がいるそうだが、このとき見た兄の顔がそういう笑顔に見えて僕は言葉を失った。  「追い出すだけなら簡単だ。でもここまでやられて、ただ追い出すだけで許せるか? おれには無理だ」
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