第六章 反撃開始

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 翌日、DNA鑑定キットがわが家に届いた。その日から僕らの反撃が始まった。夕食の途中、テーブルに突っ伏して眠り始める夏海。  「母さん?」  父は今までなかったことに戸惑っていた。  「よくない病気かもしれない。ちょっと二人で病院に行ってくる」  体調の悪い愛妻を気遣う優しい夫。一見すると非の打ち所のない円満夫婦。すべては錯覚だったわけだが。  架が父を押しとどめ、また椅子に座らせた。  「睡眠薬を飲ませただけだから、病気というわけじゃない。いや病気かもしれないな。浮気性という――」  「睡眠薬? 母さんに睡眠薬を飲ませたというのか? おまえたち、何を考えてる?」  小型ビデオカメラの映像データから決定的なシーンだけを切り取り、B4サイズに拡大印刷した数枚の日付入りの画像を、僕は父に手渡した。  「お父さん、その人浮気してるよ。ずっと前から」  と夢叶。父は渡された拡大写真を見るなり絶句した。  「その様子じゃ、父さんまったく気づいてなかったみたいだね。浮気してるのを知ってて好きにさせてたらどうしようって心配してた。これで心置きなく復讐できるわけだ」  架はDNA鑑定キットを父の前に差し出した。  「それは?」  「DNA鑑定キット。父さんとこの女も鑑定してもらいます」  「そんな……。浮気といっても魔が差しただけで、最近の数回だけのことなんじゃないのか」  「父さんと知り合う十年以上前かららしいよ。父さんは結婚詐欺に遭ったようなものだよ。はっきり言うけど、おれたちは三人とも遺伝上の父親は浮気相手の方だと思ってる。でもたとえそうであっても、おれたちはこの女ではなくて父さんを親として選ぶ。父さんが血の繋がってないおれたちなんていらない、というなら悲しいけどそれも受け入れる。その場合、おれたちは兄弟三人だけでも悪魔二匹と戦うつもり。何があっても刺し違えてでも、こいつらだけは絶対に地獄に叩き落とす! 父さん、時間があったらこれも見といて。頭に来て破壊しちゃダメだよ。高額慰謝料を請求するための絶対的な証拠だからね。まあ、一個壊しても何個もコピー取ってあるから実は大丈夫なんだけどさ」  架は例のUSBを父に手渡した。父はDNA鑑定に応じてくれた。夏海の分は寝てるあいだに勝手に綿棒を口の中に突っ込ませてもらった。  夏海の寝ている隙に、僕らにはまだすべきことがあった。夏海のスマホの調査。といっても調査するまでもなくLINEの画面を出しっ放しの状態で眠ってしまったので、夏海と大夢はLINEで連絡し合っていたことが分かった。夏海のLINEトーク画面を、架のスマホでも閲覧できるように設定を変更した。  それから僕と架の二人で夏海をリビングに運び、ソファーに座らせた。架が夏海の長いスカートをまくり上げ、下着をずり下ろす。  「おい、何をしてるんだ? 母さんはトラウマのせいで……」  父は言い終わる前に絶句した。言うまでもなく、妻の下腹部の〈大夢専用〉の文字を見たからだ。夢叶が忌々しそうに浮気の証拠としてそれもスマホで撮影する。  「父さん、DNA鑑定の結果が出るまで、今までと変わらない生活をして下さい。きついだろうけど、やって下さい。おれたち子どもでもできてることなんで」  「分かった……」  父は放心状態のようだった。無理もないが耐えてもらうしかない。  その後、僕らは架の部屋で夏海のLINEトーク画面を確認した。夏海が毎日朝晩、〈大夢専用〉とマジックで書かれた自分の下腹部を撮影して大夢に送信し続けていたことを知った。父にも見せた。父は何も答えず、架の部屋から出ていった。
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