デート

36/65
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
「ジョリーって、向日葵みたいだよな」  ベンチで休憩していたら、ふと真澄君が変なことを言い出した。 「向日葵? どこが?」 「真っ直ぐな所」  意外な答えに目をパチクリさせていると、真澄君は少し照れ臭そうな顔をしている。  しかし私は、しっかりとこの前のやり取りを覚えている。 「真澄君? 私のことを、屈折してるって言ってませんでしたっけ?」  わざと敬語を遣いジローッと横目で見ると、真澄君が苦笑する。 「確かに言ったな。でもさ、屈折するってことは元は真っ直ぐだったってことだろ?」  意外にもちゃんと答えが返ってきたことに驚く。 「何か、思考家に影響されてない?」 「そうかもな。ジョリーのせいで面倒臭くなったかも」と、失礼なことを言うから頭を叩いてやる。 「嘘だよ。とにかく、ジョリーの中には芯を感じるんだよ。向日葵みたいに真っ直ぐな芯」  子供のように足をプラプラさせながら、こちらを振り向くとニッコリと微笑む。  その顔は今までに見たことがない。綺麗で優しい笑顔。  だからだろうか。心が微かに動いた。どちらの方向かなんてわからないけれど、ただ動いた感覚がする。 「……芯なんてない」  否定する私に真澄君は「そんなことない」と、言う。 「思考家なのも、自分で答えを探そうとしてるからだろ? それは自分軸があるんだよ。真っ直ぐな芯がな」  顔を上げると真澄君の漆黒な瞳が私を見つめる。  それだけで、私と同じように彼の中の何かが動いていることを知る。  こういう時、自分の観察力を怨めしく思う。  鈍感であればこのまま楽しむだけでいられたのに、彼の中の何かの気配を感じてしまった。  その瞬間、切なさだけがこの心を支配する。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!