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「樹里が女神か」
男の子が帰ると、何か言いたげな顔で画集を眺めている。
「何よ」
「女神って、もっと柔いイメージだけど。樹里は思考家だからカクカクっと固いイメージじゃね?」
ニヤニヤと笑う真澄君の頬をつねってやる。
まあ、確かに自分でもカクカクのイメージはあるけれど。
「なあ。俺の歳位の時って樹里は何をしてた?」
「突然すぎ」
話が飛び過ぎて意味がわからない。瞬きしていると「樹里のことをもっと知りたい」と、彼は微笑む。
「そんな過去のことを知ってどうするの」
「いいだろ? 知りたいんだから」
「もう時期死ぬのに知ってもしょうがないじゃない」
今回は意図的に雰囲気をぶち壊しにかかったけれど、何故か今日の真澄君には効果がないようだ。
「樹里が死んでも、俺の中に沢山の樹里を残したいから」
なんて真剣に言われてしまったら、ふざけることはできない。ならば、途中で嫌になるような暗い人生でも聞かせてやろう。
「真澄君の歳だと、私は摂食障害から少しづつ回復して止まっていた生理が始まった頃かな」
「え」
想像していたものと違ったのか、真澄君が固まっている。
しかし、これが私の人生だ。
「そろそろ普通に生活ができるだろうと、ファミレスのホールでバイトを始めたの。だけどオーダーを打ち込む機械を覚えられなくてクビになった。次はコンビニ。レジ打ちは向いてたんだけど、品出ししてる途中にぎっくり腰になったからやめることになった」
「ぎ、ぎっくり? 若いのに?」
やっと口を開いた真澄君は、目をパチクリさせている。
「若さは関係ないの。だから、真澄君も気をつけるように」
「は、はい」
素直に返事をする彼に苦笑しながらも、私は話を続ける。
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