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“__私みたいに彼との思い出があるからこそ、前を向いて生きていける人間もいる”
桜井さんの亡くなった彼のように、きっと私がこの世界からいなくなっても真澄君の中には私が生き続けるのだろう。
正直、それを喜んでいいのか悪いのかわからない。
ただ残るのならば輝いた瞬間を残したいと思う。桜井さんのように真澄君がこれからを生きていく中で、この瞬間を思い出して笑えるように。
そしていつか誰かを好きになった時に、飛び込んでいけるように。その先に輝やかしい日々があると信じられるように……。
今までの私は自分の苦しみにばかり捕らわれて、消えたいとばかり願って残される側の気持ちを考える余裕はなかった。死ぬことを赦された気持ちになり安らぎすら感じていた。
だけど真澄君と出会い過ごした日々が私を変えた。
だからこそ、今また心に新たな問題が浮かび上がる。
死んでも私の存在が他者の中に生き続けるというならば、両親はどうなるのだろうか。
__両親の中にはどんな私が残るのだろうか。
そんなことを考えていたら、結局眠れずに朝を迎えてしまった。
カーテンを閉める時に見た朝日は、隣に真澄君がいないと色褪せて見えた。どこから見ても同じ景色のはずなのに、温もりよりも寂しさを感じた。
ベッドに横になり暫く雑誌を見ていたら、昨日もあまり食事がとれなかったせいか少しだけ空腹感を感じた。
冷蔵庫を覗いて、お目当ての物を見つける。
タッパーを開けてお漬け物に爪楊枝を指すと、買っておいたお茶と一緒に頂く姿は端から見たらお婆さんみたいだろう。
しかしほどよい塩味と糠の香りは驚く程にお茶と良く合う。白米までは胃に入らなくても満足だ。
「……美味しい」
みんなの顔を思い浮かべながら一口一口大切に頂く。
肉じゃがとだし巻き玉子も、本当はもっと日数をかけて頂きたかったけれど傷んでは困るからと早めに食べてしまった。
その瞬間の気持ちは、最後の晩餐のようだった。
お漬け物を頂いて少し横になっていても、なかなか睡魔が襲ってこない。しょうがないから身体を起こすと、引き出しからノートを取り出す。
__これは茨城に滞在していた日々を記した日記。
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