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だけど、母親になったことのない私には純粋にわからなかった。
こんな社会からも世間からも溢れて、何の生産性もない子供を持つ親の気持ちも。そんな子供が親より先に死ぬ気持ちも。
「当たり前じゃない。樹里には長生きして欲しい。それに、こんなって何よ。私とお父さんの自慢の娘よ」
何の迷いもなくそう言いきる母に、胸の奥から熱くて痛い物が込み上げてくる。
「……ありがとう」
幼い頃の私に聞かせてあげたかった。誰よりもこの人に認めてもいたかったあの日の私に……。
注意散漫で片付けが苦手で、その時はまだ発達障害だと知らなかったから母は私を少し抜けただらしのない子供だと思い厳しく躾た。
当然、怒られてばかりで私の自己肯定感はそこから低く見積もるようになったし、どうしたら母に褒めてもらえるだろうか。認めてもらえるだろうか。そんなことばかり考えていた。
だけど今、母は何もできない私でも生きていて欲しいと望んでくれている。
自慢だと言ってもらえる要素は一つもないけれど。生きていて欲しいと望まれる理由だって見当たらないけれど。
なのに、これが腹を痛めて生んだ母心というものなのだろうか。
母の言葉に私は救われる。
自分に価値があると少し思えるような気がする。
もしも生い先が長いのならば、これからも精神や気力をすり減らしてでも理解してもらう努力をしなければならない。
でも、もうそんな必要はない。
ならば純粋に、母の言葉を受け入れ感謝することができる。
「……樹里」
私を優しく見つめる瞳には水面が揺れている。
父とは違い正面から向かい合おうとする母とは、沢山ぶつかり合ったことも傷つけ合ったこともあった。
しかし今は、そんな過去も脳内で美化されていく。厳しかったことも全てが愛だと思える。
本当はもっといい子になりたかった。自分でも認められる程の根拠のある自慢の娘になりたかった。
なのに、全て上手くいかなくて生まれてきたことを嘆いて死にたいと思ったのがこの人生の結末。に、なるはずだった。
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